戦略で考える3/4: 税理士事務所を例に「What」を定義する

税理士として独立し、誠実に業務に取り組んでいるあなたに、厳しい現実を突きつける質問かもしれません。

「顧問先から、『あちらの事務所はもっと安い』と、顧問料の値下げ交渉をされた経験はありませんか?」
「『税務申告や記帳代行なんて、結局どこに頼んでも同じでしょ?』という顧客の無言の圧力を感じたことは?」

税務という専門業務は、その性質上、差別化が非常に難しい領域です。
「正確な申告」「迅速な対応」は、今やプロとして“当たり前”のこと。
顧客から見れば、サービスの質の違いが分かりにくいため、どうしても「価格」という最も分かりやすい基準で比較されがちです。

多くの真面目な税理士が、この「価格競争」という泥沼の戦いに巻き込まれています。
しかし、価格競争は、あなたの専門性や費やしてきた時間をすり減らすだけの、最も「勝率の低い」戦い方です。

あなたが売っているのは「作業」ですか?

なぜ、価格競争が起きてしまうのか。
それは、自社が提供する価値、すなわち「What」を、顧客と同じ「機能」でしか定義していないからです。

「確率思考の戦略論」において、「What」とは「自社が顧客に提供する独自の強み」を指します。

多くの事務所が、自社の「What」を次のように定義してしまっています。
– 「税務申告を代行します」
– 「記帳を正確に処理します」
– 「節税のアドバイスをします」

これらはすべて「機能的価値」、つまり「作業」の説明に過ぎません。
顧客は、その「作業」そのものが欲しいのでしょうか?
違います。

思い出してください。
顧客は、自らの「Job(片付けたいこと、欲求)」を解決するために、あなたを「雇用」するのです。

例えば、「税務申告を代行します」という機能(What)の裏側にある、顧客の本当の欲求(Job)は何でしょうか。
それは、「面倒な税務計算や申告手続きから一切解放され、その時間(リソース)を、売上を上げる『本業』に集中させたい」
ことかもしれません。
あるいは、
「数字のことは専門家に任せているという『安心感』を得て、孤独な経営判断の『パートナー』が欲しい」ことかもしれません。

もしそうだとしたら、あなたが本当に提供すべき「What」とは、
「経営者の貴重な時間を本業に集中させ、事業成長を加速させるパートナー」
という、より本質的で、情緒的価値を含むものになるはずです。

「作業」を売れば、価格競争になります。
しかし、「安心感」や「事業成長の加速」という本質的な価値(What)を売ることができれば、あなたは「価格」ではなく「価値」で選ばれる存在になれるのです。

 

「What」を定義し、「選ばれる確率」を上げる

戦略とは「やらないことを決める」ことです。
「何でもやります」という事務所は、「何も得意なことがない」と言っているのと同じであり、誰からも選ばれる「確率」が低くなります。

自社の「What」を鋭く定義し、その「What」を熱狂的に必要としている顧客に集中してリソースを投下する。
これこそが、高確率で選ばれるためのポジショニング戦略です。

【NG:確率の低いポジショニング】
– キャッチコピー:「迅速・丁寧に対応します!」「地域密着、何でもご相談ください」
– なぜ低いか?:誰でも言えることであり、あなたの「独自性」がゼロです。顧客は「他の事務所と何が違うの?」と感じ、結局「価格」で比較するしかありません。

【OK:高確率なポジショニング戦略】
あなたの経験やスキル、そして情熱に基づき、「What」を具体的に定義します。

戦略A:「ITスタートアップの資金調達」に特化
– Whatの定義:「エクイティ(新株発行)での資金調達と、複雑なストックオプション税務に日本一強い税理士」
– なぜ高確率か?:数千万円単位の資金調達を目指すスタートアップにとって、「顧問料が月5千円安い」ことより、「資金調達を成功させ、面倒な資本政策の税務を完璧にこなせる」ことの価値が圧勝します。競合が少ないこの領域で、「あなたでなければならない」という指名買い(高確率)が生まれます。

戦略B:「飲食店のDX化支援」に特化
– Whatの定義:「『どんぶり勘定』から脱却。クラウド会計導入とリアルタイム業績管理(DX化)で、銀行融資を確実に引き出す伴走型パートナー」
– なぜ高確率か?:日々の売上に追われ、数字が苦手な飲食店オーナーの「Job(銀行からスムーズに借りたい、経営を安定させたい)」を直接解決します。単なる記帳代行ではなく、「経営の右腕」というポジションを確立でき、価格競争から脱却できます。

戦略C:「製造業の設備投資」に特化
– Whatの定義:「使える税制優遇(補助金・特別償却)を漏れなく適用し、『効果的な設備投資』によるキャッシュフロー最大化を支援する財務戦略家」
– なぜ高確率か?:数千万円の設備投資を考える経営者にとって、税制優遇をフル活用できるかは死活問題です。「先生のおかげで数百万円得した」という実績が生まれれば、それは他社には真似できない強力な「What」となり、高い顧問料であっても「高確率」で選ばれ続けます。

「What」とは、あなたが「できること」を羅列することではありません。
「競合よりもうまくでき、かつ特定の顧客が喉から手が出るほど求めていること」
——これこそが、あなたが定義すべき「What」です。

あなたの事務所が、価格競争という消耗戦から抜け出し、
「あなただからお願いしたい」と高確率で選ばれるために。
今一度、問い直してみてください。
あなたが顧客に提供する、本当の「What(価値)」とは、一体何でしょう

 

想いをカタチに、そして成果に。

Articulating your passion, creating your success.

       

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