5年10年ぶりの「ご無沙汰しています」を、確実に再会へ変える方法を考えてみました。
◾️心の準備と、実践的な4ステップ
「もう5年も連絡していない。今さら何と声をかければいいんだろう」
BtoB営業を10年以上続けてきた方なら、一度はこんな思いを抱いたことがあるはずです。
顧客名簿を眺めながら、かつて深くお付き合いした方の名前を見つけると、懐かしさを感じると同時に
「今さら営業目的だと思われないだろうか」という不安が頭をよぎります。
でも、ちょっと待ってください。
マーケティングの世界には「新規顧客の獲得コストは既存顧客の5倍」という法則があります。
では、その中間に位置する「かつての顧客」はどうでしょう。
答えはシンプルです。
すでに信頼という土台がある分、新規開拓よりずっと近い距離から始められる、温かくて豊かな可能性を秘めた存在だと思います。
今回は、休眠顧客との関係を自然に復活させるための、心の準備と具体的なステップについて考えてみました。
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◻︎なぜ「営業っぽく」感じられてしまうのか
まず大前提を整理しましょう。
相手が警戒するのは「商品」ではなく、「この連絡にどう対応すべきか分からない」という感情的な負担です。
久しぶりの連絡に対して、相手の頭には瞬時にこんな疑問が浮かびます。
「急にどうした?」
「断るべき話なのか?」
「時間を取られるのか?」
これはコミュニケーション論で言う「認知コスト」の問題です。
人は判断材料が少ない状況では、とりあえず防衛モードに入ります。
だから最初にすべきことは、説得でも説明でもなく、
相手の脳内にある「これは面倒な話かも」というノイズを減らすことなのです。
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◻︎再会の前に:「古い道」を思い出す
具体的なステップに入る前に、少しだけ心の準備をしましょう。
5年、10年という時間は、一見すると「断絶」に見えます。
でも実は、かつてあなたと相手が一緒に歩いた道は消えていません。
ただ、その道の上に落ち葉が積もり、草が少し生えているだけです。
その道を思い出しましょう。
どんな会話をしましたか?
どんな課題を一緒に解決しましたか?
相手はどんな価値観を大切にしていましたか?
あなたがすべきことは、
ほうきを持って、そっと落ち葉を払うこと。
「この道はまだここにありますよ」と、小さなシグナルを送ることです。
では、具体的にどう進めるか。4つのフェーズに分けて見ます。
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◻︎フェーズ1:地ならし――最初の1通で警戒心を下げる
初回の連絡で目指すのは「話を進めること」ではなく、「安心してもらうこと」です。
ポイントは3つ
1. 空白期間を素直に認める。ただし、言い訳は不要です。
2. 連絡した理由を具体的にする。「ふと思い出した」だけでなく、何がきっかけかを。
3. 返信の負担を下げる。返信は任意であることを伝える。
具体例
「ご無沙汰しています。御社のウェブサイトで新事業の〇〇を拝見し、以前ご一緒した△△プロジェクトのことを思い出しました。
あの時のやりとりが懐かしく、近況をお伺いしたくなりご連絡した次第です。
営業のご連絡ではありませんので、お忙しければ返信はご無用です」
ここでのポイントは、「営業ではない」と宣言することより、
「返信しなくてもいい」という選択権を渡すことです。
人は自由度があると防衛心が下がるのです。
◻︎実務のコツ:徹底的な「今」の観察
連絡する前に、相手企業のウェブサイトやプレスリリースを確認してください。
新しい拠点、新サービス、表彰、人事異動――何でも構いません。
「見てくれている」という事実が、相手に安心感を与えます。
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◻︎フェーズ2:小さな再会――15分の近況交換
返信が来たら、次は軽い再会です。
対面でもオンラインでも構いませんが、時間は15分と明示しまよう。
面談の設計が信頼を作る
「今日は近況の情報交換だけです。提案や営業は一切しません」
この一文を、メールにも、冒頭の挨拶にも入れてください。
これは単なる配慮ではなく、相手の脳内にある「結局売り込みでしょ?」というノイズを消す設計です。
誠実さは、気持ちではなく行動の設計で伝わります。
「聞き役」に徹する
15分間、あなたのプレゼン時間はゼロです。
空白の時間を埋めるように、相手が歩んできた道のりを丁寧に聞いてください。
– 会社の変化
– 業界のトレンド
– 個人的な近況
人は、自分の歩みを理解し認めてくれる人に心を開きます。
あなたが持ち前の観察力と聞く力を発揮すれば、5年、10年の空白は15分で縮まります。
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◻︎フェーズ3:信頼の再構築――軽い価値提供を「無償で」
近況交換の中で、相手は小さな悩みや課題をこぼすかもしれません。
ここで提案書を出すのは早すぎます。
代わりにすべきは、軽く、的確な価値提供です。
具体例
– 参考になりそうな記事や事例のリンクを3つ
– 要点をまとめた1枚メモ
– 注意すべきポイントの整理
渡し方が重要
「もし使えそうならご自由にどうぞ。今すぐ進める必要は全くありません」
この「押し付けない一言」が、相手の心的安全性を守ります。
心理学的に、人は「借りを作らされた」と感じると距離を取ります。
あなたの優しさが、相手に負債感を与えないよう注意してください。
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◻︎フェーズ4:自然な商談化――相手の合図を待つ
商談化の合図は、相手から出ます。
「それ、もう少し詳しく聞きたいな」
「こういうの、対応できる?」
「見積りってどんな感じ?」
この合図が出て初めて、提案に移ります。
そして提案も、できれば1案押しではなくA/B/Cの選択肢を出せるとベストです。
選ぶという相手が主導権を保ったまま前に進められるからです。
ここまで来れば、もう「唐突な営業」ではありません。
「相談への対応」になっています。
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◻︎「慎重さ」という最強の武器
といってもそんなにうまくいくかな、私は少し引っ込み思案だからという方へ。
「自分は積極的じゃないから、営業には向いていない」と思っていませんか?
実は逆です。
休眠顧客へのアプローチでは、あなたの慎重さこそが最大の強みになります。
なぜなら、相手が最も警戒するのは「強引な売り込み」だからです。
あなたの「相手の反応を気にしすぎてしまう」という性質は、
裏を返せば、相手の状況を常に読み取ろうとするアンテナの高さです。
その繊細さは、文面や声のトーンを通じて、必ず誠実さとして伝わります。
押しの強さで勝負しない営業。
段取りを組み、相手の負担を最小化し、相手の選択権を守る営業。
このスタイルは、BtoBの世界では特に強いと思っています。
なぜなら、BtoBは単発の取引ではなく、関係の継続が成果を決めるキーだからです。
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◻︎旧交を温めるとは、信頼を更新すること
最後に、覚えやすい合言葉を一つ。
「売る前に、安心を設計する」
これだけで、休眠顧客への連絡は驚くほど自然になります。
旧交を温めるとは、過去の関係に甘えることではありません。
過去の文脈を尊重し、今の相手の状況に合わせて、信頼を更新することです。
そしてその更新作業は、あなたが思っているよりずっと、相手に歓迎されるものなのです。
冬の静かな午後、温かい飲み物でも飲みながら、名簿の中から一番顔が思い浮かぶあの方の名前を見つめてみてください。
最初の一歩は、完璧な敬語でなくていい。
「ふと思い出したので、ご連絡しました」
その一言に込められた体温は、どんなに洗練されたマーケティング用語よりも、
5年10年の時を越えて相手の心に深く届くのではないでしょうか。
数字を追うための「リスト」としてではなく、これまでの歩みを支えてくれた「大切な知人」として。
そんな温かい視点で、一通のメッセージを送ってみる。
それが、あなたの10年の経験を、より豊かな成果へと導く第一歩になります。
たとえ商談に結び付かなくても、一度同じ現場に立った人と再会するのは楽しいですよ。
